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「介護の質」の問題
研修などで, 「ケアマネの質の問題」や「介護の質の課題」といった言葉を耳にしたことはありませんか? このテーマはさまざまな場面で繰り返し論じられているように思います
しかし一方で, 「介護の質が改善した」と語られたことはあるでしょうか?
無いとしたら, 皆さんの介護は本当に「質が悪い」のでしょうか?
私自身の率直な感想として――
現場の皆さんは, きちんと仕事をされています
ご利用者からも感謝されています
それぞれが地域福祉を支える, 大切なピースであることに疑いはありません
それなのに, なぜ――
「介護の質」の問題が, 常に問われ続けるのでしょうか?
何度も「研修会」に参加しなければならないのでしょうか?
一度, 冷静になって俯瞰し, 物事の本質を捉え直してみましょう
もしかすると, 私たちは「権威バイアス」にとらわれているのかもしれません
目次
権威バイアスとは?
権威バイアス(authority bias)
= 専門家や上位者などの「権威ある人物の意見」を, 内容の妥当性にかかわらず正しいと受け入れてしまう傾向
私たちは無意識に“上”からの指示と現場とを無意識に切り分けて考えているかも知れません いわゆる「ダブルスタンダード」 権威を絶対視する傾向がないか, 振り返って考えてみましょう
📚事例:実地指導
上司より「来月監査がくる!」と言われ, 普段の業務に加え, 書類の確認に追われた経験はありませんか? そもそも実地指導は, 管理者やサービス提供責任者が対応するもの 現場のヘルパーは関係ないのに, なぜ一緒に書類整備しなければ?
これは, おそらく
「権威ある人物」の意見を, 無条件に受け入れてしまうバイアスがあるため
勘違いしてない?【あなたのバイアスチェック】
①「医師や警官の言うことは正しい」
→ 白衣は誰でも買えます 警備員を警官と勘違いしているかも?
→ 制服を着ていても, 私たちと同じ“人間” 間違えることもあります
②「テレビに出ている専門家の話は信用できる」
→ 個人的な感想かもしれません
→ 実は専門外の分野で話しているかもしれません
③「学歴や肩書があるから正しい意見だ」
→ 実はその人, 専門外の分野について話しているかもしれません
→ ただの感想である可能性もあります
「勉強しても頭に入らない…」意外な理由?
「ケアマネ試験や介護福祉士の試験, もう一度解ける自信がありますか?」
「赤本・青本を理解していれば, 監査も怖くない」と言われますが, 実際に読めていますか?
おそらく, 自信のある方は少ないと思います
なぜでしょうか?
- 「基礎学力が足りないから」
- 「本を読むと眠くなるから」
――たしかに, 一理あります
でもそれだけではありません
読解力の問題だけでは説明できないことがあるのです
ここで一度, 頭をまっさらにして俯瞰して考えてみましょう
もしかすると, それは――
「確証バイアス」が影響しているのかもしれません
確証バイアスとは?
確証バイアス(confirmation bias)
= 自分が信じたい情報だけを重視し, 反対する情報を無意識に無視する傾向
「自分に都合がよいことだけを信じる」に似ているが, ネガティブな情報でも”信じ”たければそれを重視する
📚 事例:赤本・青本を読んでいるのに…
ある事業所では, 法改正のたびに赤本や青本をスタッフ全員で読み合わせしています
皆で読んでいるので, たしかに「読めている」はずですが――
- 「コピーは必ず保管しなければならない」という思い込み
- 「署名付きケアプランのコピーは必ず備えておくもの」という誤認識
…このような誤解が, 実際には多く見られます
これは, おそらく
「介護保険業務とはこういうものだ」というステレオタイプ(固定観念)が根強くあるため
どれだけ本を読んでも, どれだけ研修会に出ても,
そのステレオタイプを手放さない限り, 現場で本当に必要な情報は読み取れません
介護業界は「記録が大変」「書類整備が負担に」などと言いますが, その原因を作っているのは, あんがい介護職員自身かも知れませんね
このような「なんとなくのイメージで○○とはこういうものだ」という思い込みは,
自分自身の確証バイアスによって強化されているのです
勘違いしてない?【あなたのバイアスチェック】
①『○○を食べれば痩せる!』といった情報ばかりに注目する
→「運動が大事」という地道な情報は見ない
②「いい人」だと思っていた人の悪口を聞くと, それが“本性”だと思い込む
→人はそもそも多面的 どちらが”本性”ということはない
③「7月5日に災害が起きる」という予言を妄信する
→それが非科学的だという情報が目に入らなくなる
どうすれば「解決」する?
「権威バイアス」「確証バイアス」などのことを, 「認知バイアス」といいます
認知バイアス:
人間の思考が一貫して非合理なパターンに偏ってしまう傾向
認知バイアスは, 多くの場合無意識のうちに働くため, 自分で気づくのはとても難しいものです そして, 例えどんな天才であっても, 完全に認知バイアスを取り除くことは, 絶対にできません! 特に現場で忙しくしていると, 「なんとなくの思い込み」や「経験則」だけで判断しがち
でも――
気づくことができれば, それだけで「質」は上がります
気づけば, はじめて「本当に必要な視点」に立ち戻れるからです
認知バイアスに気づく3つのコツ
コツ | 解説 |
---|---|
① 「本当に?」と何でも疑う | どんなに慣れた仕事でも「これしかない」と決めつけていないか? 立ち止まって確認 |
② 「逆の意見」を一度は見てみる | 反対意見に, あえて触れてみる 反対意見が間違っているとは限りません |
③ 「なんとなくの前提」にラベルを貼る | 「それ, 単なる思い込みかも?」と口に出すだけで, 思考が整理され, 客観視しやすくなります |
どう行動すればいいの?
アクション | 内容とポイント |
---|---|
✅AIに訊く | 必ず正しいとは限らないが, 違う視点で, バイアスに気づきやすくなる |
✅新人や別業種の意見を聞く | 家族や友達なら, 別の意見かも 違う視点は, バイアスに風穴を開けるヒントに |
✅自分の知識を疑い, 赤本・青本を読んでみる | 先入観なく読んでみると, 新たな気づきが得られるかも! |
✅寝て, 翌日に判断する勇気 | 一晩寝かせるだけでバイアスの影響は軽減される |
おススメは「AIに訊く」
試しに
「介護保険事業所は必ず介護保険証のコピーを備えなければなりませんか?」
と訊いてみてください
きっと 新たな視点が生れるはずですよ!
あなたは「すでに価値ある存在」
「介護の質を高めるために, もっと頑張らなきゃ」と思っている方こそ, すでに十分に意識が高い証拠です
本記事で紹介した認知バイアスは, 決して「悪い癖」ではなく, 誰にでもある自然な認知の傾向です
それを「自覚できるかどうか」こそが, プロフェッショナルとしての分かれ道になります
✅ 最後にもう一度, あなたへの問いかけ:
- 「それ, 本当にそうでしょうか?」
- 「誰かがそう言っているから, そう思い込んでいませんか?」
- 「別の見方は, 本当に存在しないでしょうか?」
- 「一度, AIに訊いてみましたか?」
一人ひとりの小さな「気づき」が,
現場全体の「質」を底上げしていきます
介護は“人”の営み
だからこそ, 「思い込み」から自由になれる力が, 何よりも大切なのです