判断基準のおさらい

イレギュラー発生時の判断基準
1.生命
2.重篤(死の危険が切迫)
3.重症(生命の危険がある)
4.中等症(入院が必要)
5.軽傷・財産・人権
6.従業員や会社の名誉・財産

こんな時 あなたならどうする?

あなたは訪問介護員です
デイサービスの送り出しをするため 朝 お客さんのもとへ訪問しました
やる事は
・起こして
・顔を洗ってもらって トイレ・着替えを済ませ
・食事の準備・服薬介助
・デイサービスの荷物の確認 昼のお薬の確認
などなど 行うことは多岐に亘ります
ゆったりしていては 時間に間に合いません

「まずはこうして その間にこれをして・・・」

あなたはイメージトレーニングをして いざ お客さんのもとへ向かうと
・・・

お客さまはまだベッドに休んでいました
お声かけすると

「今日は なんだかお腹が痛いから 休むわ」

せっかくいろいろと考えて訪問したのに 拍子抜けです
さて こんな時 あなたはどんな対応をとりますか?

考えられる対応にはどのようなものがありますか?

  • 即座に病院の手配をする
  • デイサービスにお休みの連絡を入れ 本人には休んでもらう
  • 判断がつかないから 提責や事務所に連絡をする
  • 何とか本人を起こして デイに送り出す

あなたなら どうしますか?

痛みの原因を知ろう

そもそも「痛み」とは?

痛みはつらいし 嫌だし 二度と経験したくありませんよね
その通り 生きる上で大切な感覚です
また 他人の痛みに共感するなど 社会性を保つうえでも大切な感覚です
ですから「痛み」という感覚を それがたとえ軽症に見えても ウソに見えても 決して軽視してはなりません

そもそも痛みとは

組織損傷、または、それに関連する不快な感覚的および感情的な、情動体験
(国際疼痛学会HPより著者意訳)

このように定義されます 意味わかりませんよね?
要するにこういうことです

  • 病気・ケガ・骨折などの身体の損傷からくる痛み
  • 精神的・心理的な痛み
  • 両方が関わる痛み

精神的・心理的痛みについては 偽薬でも強い鎮痛効果が得られることがあるそうです いわゆる「プラセボ効果」というやつですね

腹痛の可能性

では 腹痛の可能性について考えてみましょう
腹痛の可能性にはどんなものがありますか?

1 病気
2 ケガや骨折
3 心理的痛み
4 ウソ

考えられるのはこんな感じでしょうか

腹痛の種類と場所

介護員が覚える必要はありませんが 参考までに


痛みの種類

関連痛(放散痛)
実際に病気がある位置ではないところに起きる 病気の部分に炎症が起きると周囲の神経を刺激し その神経が担っている部位まで痛くなる 痛くなる場所と病気の関係がある程度わかっている

体性痛
突き刺されたような痛みで比較的長く続く 痛い場所は指で指し示せるほどはっきりわかり 痛い場所を強くおさえるとさらに痛みが増す 体を動かすと痛みが増す 臓器やその近くの腹膜に炎症がおきると痛みが発生する

内臓痛(疝痛)
キリキリとした痛みが周期的に起こる 管状の臓器である胃・腸・胆嚢・尿管などが強く伸びたり過度に縮んだりした時に痛みが発生 痛みの位置は比較的広い範囲 嘔吐や冷や汗などを伴うこともある

健康長寿ネット[https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/hukutsu.html]

痛みの場所

心窩部(みぞおち):食道や胃、すい臓、肝臓など
右上部腹部:肝臓、胆のう、腎臓、大腸など
脇腹:尿路結石・腸炎など
下腹部:盲腸(右側)、大腸など

健康長寿ネット[https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/hukutsu.html]

よく観察し 考える

痛みの種類と腹痛の場所について知ったら 今回のケースがどれにあたるのかを考えましょう

1 病気
2 ケガや骨折
3 心理的痛み
4 ウソ

病気

体性痛・内臓痛の場合は 当然 病院の受診を考えます
と その前に 便秘の可能性もありますね 排便後 腹痛が改善することもあります
便秘で便が出にくい場合も 病院受診を考えます

病院受診の判断は 最終的には本人や家族が行いますが ご様子を見て 緊急性など総合的に判断し 受診を促しましょう 受診の判断に迷ったら 提責などに相談しましょう

ケガや骨折

見てケガや骨折と判断できる場合は その度合いに応じて病院受診を促します
特定の姿勢や体位の時にだけ痛みがある場合も 整形外科受診を促します

病院受診の判断は 最終的には本人や家族が行いますが ご様子を見て 緊急性など総合的に判断し 受診を促しましょう 受診の判断に迷ったら 提責などに相談しましょう

心理的痛み

過去に事故に遭われた方・治療中の方などは 不快感などを契機に痛みを感じることがあるそうです また神経痛など 根本治療ができない方も同様に痛みを感じます
スマホで既往症などを確認するのがいいですね

多くの場合 受診しても根本治療ができないので 取り立てて急ぐ必要はないかも知れません しかし 私たちに病気の判断はできません  本人や家族と相談をして 受診の判断を行いますが この場合は提責に相談しましょう

その場でできることは 傾聴です 心理的痛みはなかなか共感しづらいですが 事実ではなく本人の気持ちに共感の態度を示すことで 気持ちが晴れることもあるでしょう
また 場合によっては 気分転換を勧めることもあります

病気の切り分け

私たちは 病気の判断はできません しかし26の診療科のうち どれを勧めてよいか分かりませんよね
とうぜん私も医者じゃないので ご指摘もあるかも知れませんが 一応私の判断基準をお伝えします

  1. 外傷や骨折が明らかな場合:外科・整形外科
  2. それ以外で痛みと場所がある程度明確な場合:内科のかかりつけ医に相談
  3. 精神的・心理的な痛みで継続・断続して痛みが強い場合:麻酔科(ペインクリニック)・精神科
  4. 精神的・心理的な痛みで一時的・軽い場合:安静や気分転換を勧める
  5. 痛みの場所や程度がまちまちで整合性がつかない場合:ウソと判断

適切な診療科でなければ 医師も患者も時間のムダになってしまいます
迷ったら まず電話で相談しましょう

ウソ

痛みやその部位が特定できず 既往症などからも判断できない 顔色をみていつもと変わりがない様子であれば ウソの可能性もあります ウソも思い込むと 実際に痛みを感じることがあるので なかなか厄介です

学生時代 嫌な授業を前にすると腹痛になった方 子供が学校に行きたくなくて腹痛を訴えること 経験ある方はいませんか?

もしかしたら お客さんは デイサービスに行きたくないかも知れません 見たい番組があるのかも パチンコに行きたいのかも ただ寝たいだけかも などなど・・・

こういう時は 一番本人に接触回数が多い訪問介護員の出番です 数か月に1~2回しか会わない医師などではなかなか見抜けません 日頃から情報を集めておきましょう

  • デイサービスで嫌なことがなかったか
  • 休みがちではないか
  • 昼夜逆転の生活を送っていないか
  • 趣味はないか?

適切な対応を

病院受診の判断

中等症以上の場合は 当然病院受診を考えますが 迷うのは軽症の場合ですよね
そういった時は 一旦 時間をとって観察しましょう 話題を変えるなどして 気分を変え それでも痛みが継続しているかどうか 痛みやその理由に一貫性があるかどうかを観察します

以前として 強い痛みがある場合には 外科・整形外科・内科などの切り分けをします
場合によっては 精神科やペインクリニックを考えます

ただし 決めるのはあくまで本人・家族です 私たちは状況を伝え 助言を行うのが良いでしょう

往々にして 田舎の病院は 忙しいです どこだって人材不足ですからね
見当違いの受診科にいくのは 病院も本人・家族も私たちも 時間のムダになってしまいます
受診前に その病院が適応するのか 必ず電話で確認をとりましょう

決めるのはあくまで本人・家族
時間のムダにならないよう 受診前に 電話で確認しよう

ウソっぽい場合は

本人の訴えを総合して その痛みや場所に一貫性がない 矛盾が多い そういった場合は ウソの可能性を考えます
相手は私たちより何十年も 人生の先輩です ウソを見抜くのは至難の業です

ただし「そういった可能性・選択肢もある」ということを 知るのと知らないのとでは大違いです 介護の教科書に「ウソで腹痛を訴えた場合」なんて記述 きっとないでしょうからね 「事実は小説よりも奇なり」とはこういうことです

コツは

  • 相手の心情や言葉に惑わされない
  • 事実だけを確認する
    例:3分前に右下腹部にキリキリしたがあると言った
      「右下腹部が痛い」は事実とは限らない
      事実は「お客さまがそう言った」ことだけ
  • 前後の状況を確認する
    例:「今日はデイの日」「昨晩は良く寝たか」など

しっかり 事実だけを確認するクセをつけましょう

その後の確認を

ウソや精神的なものだと判断しても その後のフォローを忘れないように
コンビニ受診を未然に防いだだけでも あなたは賞賛に値しますが 万が一のために その後の安否確認を行いましょう 後で行くヘルパーでもいいし 提責に電話確認をとってもらってもいいです
もしかしたら 何か見落としがあるかも知れませんからね