お仕事お疲れ様です.このページをみてくれて,ありがとうございます.今回は,マナーに厳しい家への訪問についてのお話です.
マナーやしきたりにこだわりをもつ,お客さま宅へ訪問し,困った経験はありませんか?
介護の教科書にはそんなこと載ってませんし,ネットや動画上にも,きちんと日本文化を踏まえた上での資料はあまり見当たりません.ですので,訪問介護のヘルパー目線で,お客さま宅で作業をする際に気を付けるべきポイントを以下に説明しますね.
訪問マナーのガイドライン
引き戸・ふすまの開け方(左開きの場合)
- 右開きの場合は,手を逆にする
- 戸の本体・ふすまの上貼りに触れない
- 室内の引き戸やふすまの場合は,座って行った方が丁寧です
引き戸・ふすまの閉め方(左開きの場合)
- 右開きの場合は,手を逆にする
- 戸の本体・ふすまの上貼りに触れない
- 室内の引き戸やふすまの場合は,座って行った方が丁寧です
ドアの開け方
※ノックは3回
(ノック2回は通称「トイレノック」)
- 相手を急がせないように 応答がなくてもしばらく待つ
- 耳が遠いお客さまの際は,臨機応変に
- 2~3回応答がない場合
事故発生時マニュアル:「訪問しても返事がない」時のマニュアルへ
入室の仕方
- お声かけ:入室する意思を相手に伝える
- 敷居(沓摺)をまたいで入室(決して踏まない)
- 靴を脱ぎ,正面を向いたままに上がる
- 翻ってしゃがみ,靴をそろえる
- (準備されていたら)スリッパを履く
退室の仕方
- 挨拶し,退室する意思を相手に伝える
- 式台に下がってスリッパを脱ぐ
- 翻ってしゃがみ,スリッパをそろえる
- 靴を履く
- ドアを開け,敷居(沓摺)をまたいで退室
挨拶の仕方
- 「失礼します」「入ります」などと声掛けし,入室
- 和室で相手が座っている,寝ている場合は,膝をついて挨拶する
- ある程度相手の近くにいき,礼をする
留意点
裏千家の所作を基本に私がアレンジしたものです.
細かい所作より,挨拶をする,相手を気づかう気持ちを表すことの方が大事
”レア”を大事に!
細かい事一つ一つ覚えるのは大変ですよね?大丈夫です.コツをお教えします.キーワードは「”レア”を大事に!」です.
次のマナーの共通点が分かりますか?
- 敷居・沓摺・畳のヘリを踏まない
- お茶は,湯呑の正面(絵が描いてある場所)をずらして戴く
- 湯呑やコップは両手で持って戴く
- 瓶やペットボトルからコップへ注ぐ時は,ラベルを上にして注ぎ,終わったら相手にラベルの表を向ける
- 畳の上では座布団やスリッパは使わない
- 畳の掃除は,畳の目に沿って雑巾・モップ・掃除機を使う
- 同様に板の間も,目に沿って掃除
- 家の中では,トイレや風呂場を特に丁寧に
- トイレを含む部屋の掃除は,四隅を特に丁寧に
覚え方は,”レア”を大事に!
日本文化では,日常(ノーマル)と特別(レア)を分けることがあります.
たとえば,里(ノーマル)と山(レア).昔話では,ノーマルである里に住む主人公が,レアである山に分け入って,キツネに化かされたり,鬼に遭ったり,特別な体験をするストーリーがよくありますね.
キツネや鬼は,レアに住むので,神聖化されたりしますよね.
それと同じように,日頃使うものでも,ノーマルとレアに分けることがあります
ノーマル | レア | |
---|---|---|
床面 | 床・廊下 | 敷居・沓摺 |
引き戸 | へり | 引手 |
床材 | 板 | 畳 |
家 | 居間・廊下 | 床の間・トイレ・風呂場 |
部屋 | 中央 | 四隅 |
湯呑・コップ | 絵が描いてない方 | 絵が描いてある方 |
瓶など液体を入れる容器 | ラベルが無い方 | ラベルが貼ってある方 |
いかがですか?だいたい想像がつきましたか?
床や廊下は壊れても別の場所を歩けばいいですが,敷居などが壊れたら,戸が閉まらなくなりますよね?
液体を入れる容器が汚れても大丈夫だけど,ラベルが汚れたら,中に何が入っているか分からなくなりますよね?
「レアを大事に扱う」文化とは,物を大切にする文化のあらわれなのです
ですから,数的に少ない場所など,他の場所と違うところを大切に扱い,掃除するときはそこをキレイにするのが,コツなんです.「レアを大事に」想像がつきました? この原則さえ覚えておけば,いちいち細かいことを覚えなくて,他に応用が効くので,便利ですよ!
上座を知ろう
日本文化には「上座」「下座」という分け方があります.いうまでもなく,大切にするのは上座.これも,「レアを大事に」を知っていれば,察しがつきます.
上座の特徴
- 床の間(とこのま)がある
- 絵や花を飾っている
- 入り口から遠い
下座の特徴
- 入り口に近い
上座・下座のルールを知っていれば,訪問時だけではなく,いろいろと応用が効きそうですね!
座席が定まっていない場合,日本では下座に座るのが無難です.
ただし作法の心得があるお客さまは,上座を勧めることがあります.そんな時は
「いえいえ.飛んでもございません!」
なーんて断ったら,逆に失礼ですよ.そういうは甘んじて厚意を受けて,その心遣い気づくだけでも,言葉にせずとも相手に伝わるものです
清潔・不潔の別を心得よう
ノーマル・レアの分け方とは少し違いますが,清潔・不潔の区別も大事です.あたりまえのことですが,以前にこれに関連した苦情があったので,一応ご紹介しておきますね
- ごみ箱・トイレ用品・オムツ用品などを,食品や食器と一緒に置かない.
例:掃除の際に一時的に小さなゴミ箱を米びつの上に置いて,苦情がありました - 食品や食器を床に置かない
- 食品や食器に触る時は,必ず手を洗う
番外編
ちょっと話がそれるかも知れませんが,マナーに関わる話をします
遅刻のマナー
近代化以降の日本文化では,時間を守ることが非常に重視されます
しかし,私たち訪問介護事業所は,前の訪問先の都合により時間に遅れることはよくあります.ですから,時間厳守よりかは,急いで事故らないように気を付けてくださいね.
とはいえ,文化的に「時間厳守」の風潮がありますので,遅れそうな場合は事前にサービス提供責任者に連絡し,遅れる旨をお客さまに伝えてもらいましょう.先方は,「今か今か」と待っている方がいますからね.それが心遣いというものですね.
左尊右卑?
「さそんうひ」と呼びます.「日本では伝統的に左が上位」と言われていますが,奈良から平安時代にかけて取り入れた中国文化の影響です.さらにさかのぼると,昔の古代中国やインドでは逆だったそうです.時は下り明治時代には西洋文化の影響で,「右が上位」となりました.このように,文化や時代によって異なります.
訪問先で「我が家は古来から伝統を受け継ぎ・・・」なんていわれても,せいぜい100年程度しか遡れないでしょうから,確率的に「左上位」で覚えておいてほぼ間違いないと思います.
ただ,現代において,「左尊右卑」なんて,仏壇の配置と,ふすまのはめ方くらいでしょう.どちらも,訪問介護のヘルパーは触りませんからあまり気にしなくてもいいですが,有償サービスで作業した際は,お客さまに聞くのが手っ取り早いですね.
まとめ
お疲れさまでした! 最後までよく,見てくれましたね!
最後にちゃぶ台をひっくり返すようですが,一番大事なのは,礼儀作法や所作ではありません.一番大切なのは,相手を思いやる気持ちです.所作や作法とは気持ちを表すための道具に過ぎません.このことを知っておきましょう.
とはいえ,まだ日が浅く,関係性ができていないうちは,気持ちを表すのに礼儀作法の所作は非常に強力です.ぜひ身につけておきたいものですね.
それでは,また次の機会に!